渡邉 美樹さん(ワタミグループ会長)「超高齢社会を迎える日本」
渡邉美樹 会長 |プロフィール(2010年11月現在)詳しく知る
1982年 明治大学商学部卒業
1986年 株式会社ワタミ(現ワタミフードサービス)設立
2000年 東証1部上場
2009年 ワタミグループ代表取締役会長CEOに就任
介護付き有料老人ホーム「ワタミの介護」、高齢者を対象にした「ワタミノタクショク」の事業を展開されているワタミグループ代表取締役会長CEO 渡邉美樹さんの視点から、高齢社会における医療、介護について語っていただきました。
- 私どもは、未曾有の超高齢社会を迎える日本に今生きるものとして、日本が「安心して老いることのできる社会」、「若者が将来に希望を持つ社会」、「次世代によりよい社会を受け継ごうとする社会」であることを願い、活動しています。
渡邉さんは「高齢者の問題は、我々みなの社会全体の問題だ」とのお考えのもと、「食」という生きる基盤から、高齢社会の課題解決に取り組んでおられます。その実現に向けた挑戦について、お聞かせください。
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私たちは、介護付き有料老人ホーム(以下ホームと記載)「ワタミの介護」と高齢者を対象としたお弁当の配達「ワタミタクショク」の事業を手掛けています。実は、高齢者向け宅配事業は介護事業から自然発生しました。ホームのご入居者様が食事をして元気になっていかれるのです。「おいしい」といって目の色が変わってこられるのです。
「食でこれだけ幸せを提供できるのなら、広く在宅にもお届けしたい」と思ったのがきっかけです。最初は、大型デパートの地下で販売をしました。これが全然売れない。今思うと、必要としている人が違ったのですね。迷っていたとき、ある長崎の弁当宅配会社に出会いました。その社長が「ぜひこのモデルを全国に拡げてほしい」とおっしゃるのです。
私がやりたいことと合致し、始めました。やってみると、弁当の宅配とともに「見守り」も届けられることがわかりました。昨年だけでも、2~3人の方の一命を取り留めさせていただきました。
今では宅配が軌道に乗りましたので、次の挑戦は「ソフト食」です。ワタミの高齢者食の強みは、常食よりもソフト食にあります。一度流動にした食品の味と色と形状を整え直し、例えば口の中にいれて36度になったら少し口内に食感が残り、ふわっととけていくような飲み込みやすい彩りよいお鮨。
いいでしょう?このソフト食も宅配にしていきたいと思っています。次のチャレンジです。
- すばらしいですね。
私たちも、患者さんから「やるべきこと」を教わっています。私たちは在宅医療者として、患者さんの生活に入りこんでいくと、いろいろなことが見え、彼らのニーズがありありと見えてきます。それは、当然医療だけでは満たすことができません。
私たちの訪問で提供できる安心感もあれば、「毎日のお弁当を楽しみにしている」という患者さんの笑顔もあります。私は、それぞれの機能を連携させワンストップで届けることができればよいと思います。
単にワンストップなだけでなく、例えば、食事も医師が監修しているなど、機能もお互いに活かし合うことにより、一人の患者さんのことを想って、社会の様々な機能が多方面で連携しているという安心感・幸せを提供できないか、その安心感を一つのブランドにして提供することで、皆から信頼・支持されるサービスとして社会に育ててもらえるのではないかと思うのです。
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まったくその通りだと思いますよ。
視点を「企業が儲ける」というところに置くと、それぞれの企業体により答えが異なってしまいますが、「この人が幸せになるためには」との視点であれば、答えはひとつになるでしょう。
医療は、在宅介護は、住まいは、食事は・・・と、皆がばらばらにやるのではなく、一人の人を軸として「この人を幸せにする」とのミッションのもとに、事業者が手を組んでいけるといいですね。
各々が各々の役割を果たしながら、少しずつ我慢もする。
そんな社会が早く実現するといいですね。そのためには、行政の方向性が示されてほしいね。今のように、サービスも負担も中途半端な状況ではなく、ある程度の行政のイニシアチブがあってこそ、その方向性を具現化していく私たちも方向性を持って進めていけますからね。
- 大変共感します。
医療こそ、そういった思想が必要なのかもしれません。私は医療現場に立ちながら、医療が自ら作っている壁、閉鎖性を感じています。私は「医療の役割の再発見」をしたいと思っています。従来医療は、大学での研究や医療機関での臨床を担うのみならず、社会の安心や安全を守るという役割であったはずです。近年希薄になったこの機能を、もう一度復活させたい。その際には、医療のみならず、多くの社会活動と連携して、信頼されうる社会インフラとなりたいと思います。
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大賛成です。
まったくその通りだと思います。
そういった意味でも、医療には制約が多い。株式会社が医療をやってはいけないとか、介護はここまでしかやってはいけないといったことが多すぎます。中には「なんのための制約なのか」と思うこともあります。本当に患者のための制約か、それとも医療者の権益を守るためか、などと考えてしまいます。私は医療法人の理事長を務めていますが、その立場から私は、株式会社が医療をやってはいけない理由なんてなにもないと声を大にしていいたいですね。
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渡邉さんに対して僭越ですが、社会の変化に伴うニーズの変化を見極めて、サービスも変化していかなくてはなりません。何かあった時に駆け付け適切な処置をする、私たちみたいなクリニックがあるから、「家にかえろう」「家に帰りたい」という人が現れてくるように思います。そのことで、人々の9割が望んでいる「自宅で家族と一緒に最期を過ごしたい」という社会のニーズに応えることができるものと思います。
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そうですよね。看取りだけでなく、日常のちょっとした不安にも対応してくれる「赤ひげ先生」のようなあったかい世界があってもいいと思います。
私たちのホームでも、末期の方の容態が悪化して病院に運ばれるケースがあります。でも最期のときにはホームにいたいとおっしゃって、お戻りになることがあるのです。そのとき私たちは、この仕事をしていてよかった、と心から思うのですよ。そして、この方に対してようやく「家」を提供できたな、と思いますね。しかし本当は、自宅があって家族がいて、そこで最期のときを過ごすのが最も良いことだと思う。それが可能になるサービスを提供している皆さんは、すばらしいと思います 。
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ありがとうございます。
しかし、在宅医療はその家庭の介護力が必要です。住まいも含めて条件が整うと、そういったベストなことができる。そうでない場合に、ワタミの介護のホームのようなところがあることが、社会に安心感を提供しています。このように「皆さんに」安心が用意されているのが大切だと思います。
私もワタミの介護のホームにお伺いしたことがありますが、スタッフが笑顔で、高齢者のための工夫がたくさんしてある温かいホームでした。しかも、安価ですよね。
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そう、私たちのホームは2000万、3000万の世界を、700万、800万という入居金で提供していきたいと、外食事業で培ったノウハウを生かし取り組んでいます。しかし、もっと安価で提供したいのです。本当は、入居金ゼロにしたいのですができない。社員に一般的な暮らしをさせるための給与を渡さなくてはいけないからです。その結果、一部の人しか救えない。「これでいいのだろうか」と思いますよ。まだまだやることはたくさんあります。
それにしても、武藤さんたちの仕事は素敵な仕事ですね。是非、がんばってください。
- ありがとうございます。
今後ぜひ、ご一緒に活動できるよう、しっかり取り組みます。
本日は誠にありがとうございました。
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(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る
1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任