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門永 宗之助 氏(INTRINSICS 代表)「高齢社会コミュニティモデルの構築」

門永 宗之助氏門永 宗之助 氏 |プロフィール(2011年1月現在)詳しく知る

東京大学工学部化学工学科卒、マサチューセッツ工科大学化学工学修士取得。
1986年 マッキンゼーアンドカンパニー入社、1992年に同社パートナー。ヘルスケア研究グループのリーダーなどを歴任。併せて、東京大学工学系研究所技術経営戦略講師を務める。
現在経済同友会医療制度改革委員会副委員長。文部科学省独立行政法人評価委員会他、公職を歴任。NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会相談役

対談内容

私たちは「都市部高齢者の孤立」を緊急課題として、産学官民のコンソーシアムにより、高齢社会コミュニティモデルの構築に取り組んでいます。今回は、世界のヘルスケア領域に造詣の深い門永宗之助 氏(INTRINSICS代表。元マッキンゼーアンドカンパニー パートナー)に、日本の医療・介護の構造を踏まえ、問題解決に向けた提言等いただきました。


門永 宗之助 氏と対談01 本日は貴重なお時間をありがとうございます。今後の高齢社会に適応したサービスの構築には、国に頼るのではなく、民間の力で高齢者を支えるモデルの発展が期待されます。まずこの点について門永さんのお考えをお聞かせください。
国民のミニマムベーシックを維持するための税金投入では足りず、民間への期待が高まります。
しかし民間の事業としてとらえるとき、高齢者イコール病気、だから医療、介護という単純な図式は間違いです。健康な人も、健康だけれども精神的、物理的に助けが必要な人もいます。もう少し高齢者の状況を精緻に見るべきです。
高齢者といえば、医療や介護、高齢者向けおむつ、シルバー向け旅行、宅配の高齢者食など別々にあるものを集めたらビジネスソリューションになるかというと、それは違います。
マーケティングの話になりますが、いろいろなタイプの人がいる中、一律ではない個々に応じたサービスを提供することができれば、ビジネスとして成立する部分は出てきます。
さらに、収益の出ない高齢者支援ということも抱き合わせで行うソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)の観点を入れていくことで、企業が参入しやすくなるのではないかと思います。
たとえば製薬会社が、儲けにはならないけれども、貧しい国向けにエイズや感染症の薬を提供しています。それは、他の国で収益を上げているからできることです。同様に、高齢者向けには、収益を上げるビジネスモデルと、収益にはならない高齢者支援を抱き合わせでやらなければなりません。そこで初めて企業は納得するだろうと思います。
なるほど。製薬企業の例や航空会社のファーストクラスとエコノミークラスの収益モデルがよい例ですね。確かに一概に「高齢者」とひとくくりには決してできません。元気な人もいるし、無縁社会や孤独死と言われるように閉じこもってしまう人もいます。
収入がある人もない人も、また収入ないけれども貯蓄(ストック)がある人もいる。今は、「高齢者」をひとくくりに「公的支援が必要な人」とし、一方で収入がある世代の負担を増加させています。これでは世代間格差と負担感が大きくなり、将来に希望が持ちにくい社会となります。これについてどうお考えですか。
門永 宗之助 氏と対談02 お金持ちから多く税金や保険料をとると言っても、そこには納得感ある手法を取ることが必要です。たとえば、ストック財産を寄付したときのメリットを大きくすることは一つです。
また、本人にとってはただの固定資産であっても、それを別の目的で使うと価値が創出されるという考え方で、活かせていない不動産を使うという方法もあるでしょう。供与するメリットは、金銭的なものでもいいし、名前が残る仕組みでもいいでしょう。
お墓に名前を彫るよりも「○○ホール」のように、パブリックスペースに名前が残ることに価値を感じる人もいます。今は寄付する人が「なるほど」と思える仕組みが整備されていません。ここに問題があるように思います。
一軒家を所有する人が高齢化しています。その家をうまく利用して、小規模での「集住」という事例も出てきました。今あるものをうまく活かす工夫はまだまだあるようです。
一方患者負担の問題ですが、後期高齢者の方でも家賃収入等があり、保険が3割負担の方がいらっしゃいます。その場合には、在宅医療の患者負担上限金額の44,000円(月額)となります。これに対して負担感が大きく不満を持つ方もおられます。
人によると思いますが、全く同じサービスなのに、隣人は1割で自分は3割だと損した気分になるのでしょう。しかし例えば「3,000万円で名前が残る」となると、そこに価値を感じて支払うというケースもあるかもしれません。
「取れるところから取る」という言い方をしますが、それは単に取るのではなく、その人が価値を感じ「払ってもいい」「払いたい」というニーズがあることが前提となる仕組みです。そして今は、その論理に則った仕組みにより、全ての人が保険1割負担で済むという循環ができうるかもしれません。
門永 宗之助 氏と対談03 日本の社会構造は健康な人を対象に作られてきました。普通に歩け、自分で判断ができる健常な人向けの社会です。しかし、高齢社会へと様変わりしていくなかで、社会のサービス構造は必然的に変わるものであると思います。その中で、医療サービスの提供構造の変化について、どう思われますか。
ロケーションを集約していくことが理にかなっていると思います。つまり、高度医療提供の場所を集約化して質と機能を高め、家から遠くなった分病院に行くというハードルが高くなる。一方で日常的な健康や病気のことを気軽に相談できる機能を整備し、両者を際立って分けていくことです。
「気軽に」の究極の形が在宅医療と思いますが、しかし、訪問という形態上、個々に対応していては、医療資源に限界がきます。そのために、患者側も工夫が必要になるでしょう。極論すると、できるだけ集まって住んでもらうという考えにも至ります。高度な医療のほうは医師が集まり、日常の医療のほうは患者が集まることで、質・効率が上がっていくのではないでしょうか。
なるほど、とてもわかりやすく整理いただきました。私は診療所こそ、患者さんについて、病気の背景にある生活背景も含めて最もよく知っていると思うのです。ですから、診療所が患者さんのことを理解した上で、必要と思われる高度な医療を受けるために、病院に依頼をする。
病院は専門家として必要なことを行い、診療所に患者を戻す。この流れを作ることが、「三方よし」の医療となるのだと思います。また、診療所でも外来診療所と在宅診療所は、持つベき機能が異なり、棲み分けが必要だと感じています。
また、人材についてもしかりで、医師は医師にしかできない仕事、看護師は看護師にしかできない仕事に特化することで、対応できる量もその質も高まると思います。そのためには、人材の裾野を広げ、活躍してもらうことが重要です。
当院では、事務系スタッフを教育し、訪問診療のアシスタントとしてまたは医療クラークとして、または診療スタッフが効率的に動くためのオペレーションとして活躍しています。 この取り組みの評価として、来年は患者さんの満足度調査を行いたいと考えています。
全体の効率を上げるために、マンパワーを投下するということは、雇用につながります。この原資として、例えば「家庭医保険」などの発想で国が一律にやると、うまくいかない。これは地域が支える、という発想が適しているように思います。
海外では見られるモデルですね。コミュニティや企業がお金を拠出し、皆で予算管理しながらやっていくという社会保障モデルはどうでしょうか。実験的にやってみる価値はあると思います。
住民の出入りが激しいところでも、この地域では皆で支えていることを十分に伝えて納得してもらい、うまく機能していけば転入者が増える可能性もあります。国が一律で、ではなく、こうした発想で、発展的な解決策が産まれてほしいものです。
私たちは、都市部における高齢者コミュニティモデルの構築に取り組んでいます。アドバイスがありましたら、お願いいたします。
日本の医療の仕組みの改革は、小規模でボトムアップのアイデアと工夫で成功事例が生まれ、それが中規模、大規模に拡大していき、それがスタンダード化するというのが理想です。ですから武藤さんにはぜひ、頑張っていただきたいと思います。
上から目線でステークホルダーが自分に有利になるようにしようとすると、施策は一律で間尺に合わず、限界があります。地域限定、規模限定で作っていくアプローチが重要で、その延長線上に答えが見えてきます。武藤さん、その一つになってください。がんばってください。
本日は貴重なご意見、エールをありがとうございました。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

門永 宗之助 氏と対談

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