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田口 義隆 氏 (セイノーホールディングス株式会社 取締役社長)「高齢者を支える社会インフラ」

田口 義隆田口 義隆 氏|プロフィール(2011年7月現在)詳しく知る

1985年 獨協大学卒業後、西濃運輸株式会社入社
1991年 西濃運輸株式会社常務取締役就任
1996年 西濃運輸株式会社専務取締役就任
1998年 西濃運輸株式会社副社長就任
2005年 セイノーホールディングス株式会社(商号変更)社長就任

対談内容

高齢者の孤立に問題意識を持ち、医療のみならず高齢者の安心の生活を実現する支え合いの地域コミュニティ「高齢先進国モデル」の構築を図ってきました。今回は、新しい社会インフラとして「カンガルーお買い物サービス」を作られた田口義隆氏(セイノーホールディングス 取締役社長)に「高齢先進国モデル」についてお話を伺いました。


田口 義隆氏と対談01 本日は貴重なお時間をありがとうございます。東日本大震災は、ゆっくりと時間をかけて表層に現れる高齢社会の問題が一気に凝縮されていると感じます。私は先ごろ宮城県石巻市に入りました。
現地の医療は、どんな状況でしたか。
被災者の方々は、生きていてよかったという段階から、もとの生活に戻りたいと願う段階にあり、ストレスがたまっていました。従来、石巻市立病院と石巻赤十字病院の二カ所であった基幹病院は、赤十字病院だけが残りました。
市立病院は3階まで水でやられてしまい診療機能を失いました。現在は、市役所の2階で仮設診療所として外来を再開しています。開業医の先生方も被災された方が多く、診療所を流された先生、未だ診療所が瓦礫の山の中にある先生など、地域医療への被害は甚大です。
今は全国から臨時支援医師が駆けつけていますが、これからいかに地域医療を地元の先生方に引き継いでいくのかを考えなければなりません。
悲惨な状況ですが、問題がはっきりとしたということですね。
要介護者が集まっている福祉避難所と言われるところでは、お年寄りがただ寝ています。これでは身体機能が落ち、床ずれができ、認知機能が落ちてきます。比較的元気な方にも、同じことが言えます。
仮設住宅はでき始めていますが、もう少し時間がかかります。現在仮設住宅への入居は、高齢者と乳幼児を持つ子育て世代が優先されており、入居者のうち高齢者は5割とも7割ともいわれています。
避難所生活でADL(日常生活動作)が落ち、さらに、回りに友達や知り合いがいないという環境では、孤立が懸念されます。
仮設住宅では、今までのような絆が出来にくいということですね。
避難所には物があり、ボランティアの人たちもいますが、仮設住宅にはありません。車を持っていなければ、買い物弱者となっています。訪ねてくる人もいません。そういった方たちをサポートする仕組みが、必ず必要です。
仮設ながらも、お年寄りにとっては終の棲家となる可能性もありますから、生活サポートは重要な課題です。
お買い物や日常生活に対するインフラが必要ということですね。
そのニーズはあります。高齢者に対し必要な物を送り、さらに届けた人がお家の中でちょっとしたお手伝い−例えばお米を米櫃に入れることや重いものを移動してあげるなど−をするという、御社の「カンガルーお買い物ものサービス」には、大変期待が寄せられています。
従来、玄関から中に入ることがタブー視されていた宅配業界において、画期的な取り組みと敬服いたします。そのチャレンジの背景には、どのような想いがあったのでしょうか。
現在、スーパーマーケット500ヵ所くらいで利用できる「カンガルーお買い物サービス」は、時代が必要とするから誕生したと言えます。買い物弱者が生まれたのは、資本主義的経済の社会構造に起因します。
商業の集約化により大きなショッピングセンターができ、町の小さな商店がなくなっていきました。これで経済効率は非常に高くなったのですが、それを享受できない人の数がこれからの日本では増えてきます。それは、日本を支えてきていただいたご高齢の方々です。
私たちが今幸せな生活を送れるのも、その方々のおかげです。感謝や敬意を表し、少しでもお返ししたいという気持ちから、インフラとして作らなければならないと考えたのです。
田口 義隆氏と対談03 医療も効率性を求めて病院への集約化が進められてきましたが、その裏で、取り残されている人たちがいます。それを拾い上げる社会システムが必要であり、医療自らが発信していきたいと考えています。
今被災地では医療体制そのものが崩壊してしまいました。ここからの医療復興は並大抵のことではないと思いますが、現在甚大な努力をされている現場の医師たちの努力を、なんとしても後世に残る形とし、復旧を超え、復興に持っていかなくてはなりません。
私たちも、被災地支援を計画しています。具体的には宮城県石巻市の在宅医療支援です。石巻市にはまだ在宅医療が普及しておらず、仕組み化もできていない状況でした。しかしながら今後、避難所から仮設住宅に移り、県外避難者が戻ってくるフェーズでは、必ず求められます。
阪神淡路の震災時には、仮設住宅に移った後に、千人単位での孤立死が発生したと聞きます。私は何としてもその状態を阻止したいと思います。
具体的には、被災され診療再開できない開業医の先生に場所や仕組みを提供し、私たちとともに在宅医療に取り組んでいただくことを計画しています。その際には、当初から地域医療・介護連携のITシステムや、生活支援サービスとの連携も視野に入れ、「高齢先進モデル」の実現にも発展させたいと考えます。
石巻の医師の方々の力を発揮していただこうということですね。
その通りです。現地の医師や看護師、ヘルパーが活躍する仕組みが重要です。今、高齢者には医療・介護・生活支援が必要であり、若い方々には雇用が必要です。
この仕組みで、従来の医療・介護従事者はもちろん、新たな力をこの分野で活かしていただき、医療・介護過疎地と言われた東北地域で、高齢者の安心の仕組みを作ることができればと思います。
それはぜひ進めてほしいですね。その中で、私たちのサービスも必ず活かすことができるはずです。
在宅医療では患者さんたちの生活ニーズもわかります。私たちの究極の目的は、高齢者の方々が安心してサービスを使えるプラットホームを作ることです。情報の取り扱い等、検討すべき部分はありますが、医療倫理とテクノロジーを両立させ、社会に求められるサービスを整えていきたいです。
田口 義隆氏と対談02 この構想は、人類にとっての福音となりますから、カンガルーお買い物サービスを通じて、できるかぎり協力させていただきます。これから日本全体や世界に広げていくには、継続性が絶対に必要です。
そのためには経済循環をきちんと作らなければいけません。結果として新しい価値観が生まれるはずです。ぜひ実現させましょう。
本日は貴重なお話をありがとうございました。これからも御一緒によろしくお願いいたします。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

 田口 義隆氏と対談

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