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渋澤 健 氏(コモンズ投信株式会社 会長、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役)
「21世紀は次代のステージ」

渋澤 健 氏渋澤 健 氏|プロフィール(2011年3月現在)詳しく知る

1961年  神奈川県生まれ。渋沢栄一の5代目の子孫。
8歳の時、父親の転勤で渡米。83年テキサス大学卒業。87年UCLA経営大学院修了(MBA) JPモルガン、ゴールドマン・サックスなどの外資系金融機関を経て、2001年投資コンサルティング会社のシブサワ・アンド・カンパニーを設立。2008年コモンズ投信設立。経済同友会幹事。

対談内容

金融分野で活躍され、社会起業家育成でも手腕を発揮されている渋澤健氏(コモンズ投信株式会社 会長、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役)はアメリカで育ち、日本国内に留まる視点とは異なる視点で日本の経済や医療のあり方を見ておられます。20世紀とは変貌を遂げる21世紀の日本の姿について語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。まず金融のお立場から、今の日本経済状況についてお聞かせください。
渋澤 健 氏と対談01 資産にはフローとストックがあります。個人金融資産は約1,450兆円で、負債を引くと約1,000兆円です。現金は約800兆円あって世界一のお金(現金)持ちです。GDPの成長は鈍いですが、毎年約500兆円のフローがあり、そのように見ると日本経済がダメということはありません。しかし、この先を考えると、見るべき軸を変えていく必要があります。菅首相は第三の開国と言っていますが、政府はおよそ1,000兆円の公的債務を個人金融資産をあてにしているようなところもあり、富の移転ということが日本の抱えている課題です。この鬼門を通過しないと次のステージが見えてこないのではないかと思います。
そうした日本の中での大きな転換点は何でしょうか。
やはり、今回も海外の脅威だと思います。東アジアの地政学的な安全保障や中東情勢でも、これまでとレベルが違ってきており、経済的脅威でも、中国や韓国に追いつかれ追い越されてしまいました。日本は人とお金の配分を高度成長時代のモデルで続けています。こういった資源の再配分、すなわちこれからの成長分野に投入する必要性が出ています。医療は成長分野ですが、資源が最適に再配分されているとは言えません。
医療は、サービス産業としての成長を期待されています。渋澤さんは、医療のサービス産業への進化の可能性をどのように見ていますか。
渋澤 健 氏と対談02 医療だけではなく銀行など金融もサービス産業ですが、共通しているのはいずれも供給者目線であるということです。その原因は、強烈な監督官庁の存在です。官庁の価値観は、患者の命や健康、預金者のお金などの保護ということです。
これは、大切なことですが、失敗を許さない社会では新陳代謝も新しい競合もありません。つまり、何か「失敗」があったときに、いつも「国のせい」にされてしまえば、官庁は自身の防衛反応のため、前例がないことをせずに言うとおりにやれ、ということになってしまいます。
その副作用は、進んで新しいことをしようとしても報われない風潮が広まることです。医療をユーザー目線から見た場合に本当に評価されるべき現場の医師たちが報われているのでしょうか。金融機関でいうと、本当に大切にすべきはエンドユーザーである個人との接点ですが、儲けや評価が高いのは大口取引先のスペシャリストです。
医療でいうと、最終的に大切なのは患者さんですから、臨床医がスーパージェネラリストとして高い評価を得られるべきなのに、そうではないところに課題があるように思います。サービス業は顧客ファーストであることが大前提です。そのような構造になっていないところに、課題があるように思います。
私は在宅医療を行う過程で、シンプルに「もっと高齢の患者さんを幸せにしたい」と思いました。患者さんは、医療や介護だけもなく、安心して健やかに過ごしたいと願っています。
医療はそのために必要な一つであって、様々な人が持つそれぞれのサービスで生活を支える仕組みが必要です。この仕組みを、民間の知恵で作っていこうというのが私たちの考えです。
菅首相が言った「最少不幸社会」は、社会の不幸を基準とし、それを減らしていこうというものです。不幸を減らすことは大切なことです。ただ、幸福を基準とする目線とは違います。「最大幸福社会」で幸福な名人が増えれば、多数が自ら不幸な人に手を差し伸べることができます。一方、不幸な人の不幸が多少減っても、多数が自分への要求は消えません。
多数が不幸であるということは、実は少数への権力の集中化につながるのです。武藤先生の活動は不幸を最小化するではなく、訪問している高齢者の方々の幸福を最大化しているように見えます。
確かに、不幸である人を救っているという感覚はありません。置かれた環境の中でいかに幸せにしてあげられるかという思いです。
不幸を基準とする社会で子どもたちを育てたくはないですね。私は、民主主義は絶対で揺るがないものというアメリカで育ちましたが、日本を見ていると、民主主義の前提が崩れていると思います。
民主主義が政治システムとして機能するのは、若い世代が多く、かつ未来志向があるところです。日本は、お金を持つ高年齢層の選挙票が多く、現状維持を望む人が多いのではないでしょうか。
この状況で民主主義を実行し続けると、今お金を使って維持して、後世にツケを回す政策につながってしまいます。現役世代が後世のことも考えて投票行動をしないと、この構造は変わりません。
渋澤 健 氏と対談03 私は、社会貢献へのリターンの仕組みに関心があります。元気なお年寄りが生きがいを持って暮らせる社会を作っていくとき、会社をリタイアしたお年寄りが家に引きこもるのではなく、何らかの社会活動をし、それに対して少しでもいいからリターンがあり、生きがいを持てるような仕組みが必要だと思います。
私たちは「ソーシャルクーポン」と名づけていますが、何か活動をすることでクーポン券がもらえ、例えばコンビニや飲食店で使えるというものです。いろいろな企業に少しずつでも参画してもらい、さらにそれを行政にまで広げ、医療費に使えるなどになるといいなと思っています。こうした「善意の循環」を作っていくとき、対価をどう評価するのか、渋澤さんのご意見をお願いします。
それは非常に面白いですね。社会起業家の人たちは、今日より明日をよくしたいという思いが強くあります。現状維持ではなく持続性ということです。持続性のためには、資源の再配分が必要で、その資源とは人とお金です。
社会起業家の人を通じて人という資源は再配分しはじめてていますが、お金の再配分はまだまだです。税金をきちんと払うことができれば社会貢献だというのは、法で定められた最低限のことを示しています。
お金が政府に徴収されて、政府という画一的な価値観で再配分されるのではなく、直接、民・民のところで多様な価値観によって再配分されるルートも確保すべきです。
そのとき難しいのは、ビジネスの世界では売上や収益という数値化できる価値が共通言語として存在していますが、社会活動の価値を単純な数値で示す共通言語がありません。
たとえば武藤さんの活動で、在宅の高齢者の方の気持ちをどう数値化できるのかということです。現場を見た人、映像で見た人は、ある程度感じるかもしれませんが、共通言語として伝わりません。
初対面の人に言葉で伝えると、「いいことされてますね」で終わり、根っこまでは動きません。
渋澤 健 氏と対談04 そうなんです。「高齢先進国モデル」という名前で、日本は高齢者対応で世界のリーダーになろうということで、第1回の会合を開きました。25社くらいの企業の方に集まっていただきましたが、この興奮をどうやって伝えたらいいのか、上司にどうやって報告したらいいのか、というメールをいただきました。心は震えているけれども、伝え方がわからないというのです。
リターンの難しさですね。それができる能力がある人材が21世紀型です。20世紀型は、生産性を高めれば豊かになるモデルがありました。一方、21世紀型は、多様性をマネジメントしなければなりません。
20世紀はピラミッド型社会で効率性を高める、21世紀はフラット形社会でムーブメントを起こす。インターネットでつながるフラットな社会で、「これをやろう」「こっちを向こう」と言ったとき、「何で?」という人たちを引っ張っていけるのは、パッションやリーダーシップなど、大事なスキルが求められます。
私はこれまでのキャリアでは主に左脳系のスキルを高めてきました。しかしここ数か月、自分たちの活動をどうやって人に伝えたらみんな一緒にやってくれると思うようになるのか、ということを実践してきました。社会イノベーター公志園出場は非常にいい機会でした。
左脳系は欠けてはならない大前提ですが、パッションのない人には他はついていきません。パッションは社会を活性化する要素がありますが、日本は物静かな社会ですね。
ときどきお祭り気分にはなりますが、持続せずにまた日常へと戻るというのがパターンです。社会起業家の人はパッションの塊で、気づいたらこんなことをしてしまいましたというのがほとんどです。
私を支えているパッションは何かと考えてみると「日本人は有能でいい人たちなのに、なぜ世界からもっと評価されないのか」という問題意識です。いい人たちが組織や国単位になると評価されないのは本当に不思議です。その答えは、日本人は今のことしか考えられないということかもしれません。
水が豊かな環境の文化なので、水のように流れてきて、水のように去っていく。長期投資で、資源の配分もきちんと時間軸を考えて投資しましょうと全国を回っていて、良い反応をいただきますが、心まで響いて行動する人がもっと増えてほしいと思っています。
私もパッション度を高めるようにします(笑)。医療もきちんと時間軸の入る分野で、予防医療などは、コツコツと積み立てる長期投資の考え方と似ていますね。
日本現状においての医療は、救急医療と在宅医療をしっかり確立した上での医療提供体制でないと、お金がいくらあっても足りません。
経済同友会で副委員長として携わった2009年度医療制度改革委員会で議論を重ねていたときに、MRIなど高度医療機器の普及率の高さと稼働率の低さの指摘がありました。
経営面から見て無駄ですし、ユーザーからしても稼働していない、手術件数少ないのは技術面で不安だということもあります。日本の医療制度のフリーアクセスは素晴らしいですが、医療サービスをクラスターとして整理して提供する必要が急務であると思います。
この構造では、国民と常時に接点を持つホームドクターの存在が重要になってきます。また終末期においては、人生の最期の一瞬を病室で迎えるのが本当に幸せなのだろうかということも感じます。
本来、病院とは「治す」ところであって、「死ぬ」ところではないはずです。
今、8割弱の方が病院で亡くなります。しかし病院では患者の人生含めて全体が最適化されていません。在宅医療ではミニマムで最大の満足を提供します。病院医療と在宅医療はそれぞれ役割が異なるということです。
先生の進める高齢先進国モデルに、私は賛同しますし、がんばっていただきたいです。そのモデルの最後の最後はヒューマンタッチだろうと思います。社会はアナログからデジタルに進みましたが、デジタルの先の進化にはアナログがあると確信しています。
デジタルは0と1の世界で、どちらが有益であるということで矛盾がありません。情報伝達には非常に有効です。しかし人間は、最後の最後に、あれもほしい、これもほしい、両方ほしいという矛盾ある存在です。これに応えるのか社会の発展を考えるうえで非常に重要なことです。
20世紀はデジタルで発展し豊かになりましたが、これからは違うモードに入っていきます。医療の分野でも新たなモードが出てきたことは、とても心強い限りです。
貴重なお話をありがとうございました。高齢者の豊かで安心ある生活のために、多くの人々と共に仕組みづくりを行って行きます。今後ともアドバイスをお願いいたします。本日はありがとうございました。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

渋澤 健 氏と対談

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