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長谷川 閑史 氏(武田薬品工業株式会社代表取締役社長)「高齢社会を支えるリーダー」

長谷川 閑史 氏長谷川 閑史 氏|プロフィール(2011年1月現在)詳しく知る

1963年 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業
1995年 武田薬品工業株式会社 入社
2000年 米国TAP社社長 就任
2003年 武田薬品工業株式会社 代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)就任

対談内容

高齢先進国である日本において、私たちは、特に都市部高齢者の孤立に危機感を持ち、在宅医療を中心とした産学官民のコンソーシアム形成を試みています。今日は日本の経済界を牽引されている長谷川閑史氏(武田薬品工業株式会社代表取締役)に、少子高齢化への問題意識と日本が取り組むべき課題について語っていただきました。


長谷川 閑史 氏と対談01 本日は貴重なお時間をありがとうございます。日本の企業が海外に転出していく中で、これからの高齢社会を支える産業は医療や介護が主流になっていくと考えられます。現在、9割は国が補填しているこの分野を今後どうしていけばいいのか、ご意見をお願いいたします。
9割を国が支えているから医療や介護が保たれているのは事実ですが、それは非常にもろい構造です。高度成長が終わった後も、高度成長期の受益と負担を基本的に変えていません。 所得から税と社会保障などコストに負担しているのは4割で、実際に受けているサービスを金額換算すると5割くらいに相当します。
そのギャップを赤字国債などで埋めています。高度成長期の短期間しか通用しないモデルを続けている限り、赤字が累積債務として増えていくだけです。これを抜本的に解消するのは消費税です。そうしたことを皆が認識しなければなりません。
同時に、サービスの担い手としては若い人以外ないわけですが、それが無理であれば、海外から人に来ていただかなければなりません。いずれ世界がもっと近づくと、日本の高齢者が韓国や中国で医療や介護を受けるために出て行くかもしれません。
実際、韓国の済州島では、日本語で全てのケアやサービスができ、安くて快適な生活を提供するという動きがあります。ニューヨークのビジネスマンが引退後にフロリダで暮らすというのは普通の話しです。
武藤先生のような人たちの善意と好意によって、破綻しつつあるものを何とかパッチワークでつくろうのではなく、日本は全体を考え直さなければなりません。
安心して老いることができる社会づくりに向けて、私たちは医療の現場で、他の事業者や企業と一緒に取り組んでいきたいと考えています。企業の強みを持ち寄り検討していく予定ですが、企業と協同するにあたってのアイデアがあれば、お聞かせください。
長谷川 閑史 氏と対談02 最も考えるべきは「届ける」という機能でしょうか。たとえば宅配便の会社と提携するのであれば、薬局やスーパーは高齢者への薬や商品を集配所まで持って行き、その後一括して宅配便のコストで配達すればよいでしょう。
もう一つは、モバイルケア、ICTテクノロジーを使ってのケアです。広大な国土を持つ国や、医師が少ない途上国では、あまねく医師がカバーできないので、住民が診断薬キットを使い、モバイルで都市部の専門医に送ります。
それを見て医師が処方や生活指導をすることで、6割から7割は解決できることが多くの国で検証されています。日本の限界集落では、こうした形で医療サービスを行う必要があります。人が減り続けるにもかかわらず「病院まで30分で行けない」「均等サービスがない」などにとらわれて道路を新たに整備していたのでは、コストがいくらあっても足りません。これから日本が50年かけて、人口1億2700万人が9000万人に減るとするならば、その過渡期のあり方を国全体で考えないといけません。
医療は、救急医療と在宅医療という両極の間をどうトランジッション(移行)していくかという観点で見、うまく流れるようなインセンティブ、つまり診療報酬を組み立てるかということが必要だと思います。
競争原理に基づいて、ベンダーがそれぞれ囲い込んでしまうことが問題です。医療のIT化は、皆が協力してやっていかなければ進みません。車であれば、特殊性を出すことで国民はニーズに合ったものを購入しますが、医療はそれとは違います。
社会の共通の財産、資産となるのですから、国として取り組むときには、一つの企業が開発から応用まで全て行うのは無理があります。ですから、共通仕様ということが非常に重要になるのです。
長谷川 閑史 氏と対談03 医療におけるIT化がなかなか進まないでいる状況で、私が病院から外へ出て開業医となって感じているのは、病院と診療所の連携がまだ充分ではないことです。病院と診療所の連携について、先生はどのようにお考えでしょうか。
救急医療については、これだけICTテクノロジーが発達したのですから、患者さんを受けられるか受けられないかの状況をどこでも見られるようにし、他で無理なら自分のところで受けなければならないと即断できるくらいのネットワークシステムを作るのが、医療提供者の義務でしょう。国家レベルでは、一部に偏りすぎた診療報酬体系を変えていかなければなりません。
ICTに関して、診療所では導入が進んでおらず、一方企業側も病院と比較して小規模マーケットであるため参入・投資判断は厳しくなります。しかしながら、特に在宅医療は介護分野も含めて、様々な事業者が関与する環境であり、ITCテクノロジーの力が大いに発揮される分野です。
それぞれ独立した医療・介護事業体間で、患者情報を効率よく収集・共有し患者さんにとって安心の環境をつくること、また国家財源を効率よく使うことについて、できることはまだまだあります。この点について、診療所側も協力すべきです。
たとえば、地域内同じシステム上で情報共有するよう、医療・介護事業者同士が協力的に連携関係を作りスケールメリットを出すことで、企業が参入しやすくなるならば、情報ネットワーク化に向けて手を取り合えば良いと思います。
システムがあれば、例えばヘルパーが日々の患者さんの様子や血圧などのバイタルサインをチェック。専用のコールセンターに伝え、コールセンターがクラウド上にアップされる。すると、情報は即座に訪問看護師、医師、ケアマネジャーが共有します。数値や状態については、正常値と異常値を共有し、ある一定以上の状態悪化があればアラートが出て、訪問看護師が緊急訪問する。
訪問看護師のアセスメントにより、必要に応じて医師が行くという構図ができれば、患者さんは本当に安心でしょう。皆が一定のルール上、システム上で活動することにより、社会的資源を効率よく使えると考えています。
私は政府のいろいろな会議に出席して、その都度言っていることの一つは、国民総背番号制の導入です。社会保障番号制、納税者番号制、何でもよいのですが、とにかく社会保障サービスの飛躍的な効率化を図ることができるこの仕組みを、早く作ってほしいと思います。
政府も本気になってやると言っていますし、そこは政権が代わっても崩せないところだと思います。武藤先生が取り組む企業・事業者のコンソーシアム化の際に企業が考えなければならないのは、企業の社会性です。
経営者もマインドセットを変え「儲からないからやらない」と言うのではなく「コストがカバーできればいい」「損さえしなければやる」という感覚で取り組まなくてはならない分野もあるということです。
心強いお言葉です。高齢者が社会の大部分を占め、社会が新たな構造となるときには、新たな仕組みやサービスが必ず求められます。高齢社会において先進国である日本が、医療・介護と産業がしっかり組んで、この課題を乗り切っていく高齢社会モデルを作らなくてはなりません。
そしてこの仕組みをソフトとして世界に発信することで、日本は再度、世界から尊敬される先進国となりうると確信しています。
このような視野においては、日本にもさらに多くのグローバルリーダーが求められます。 御社でもグローバルの視点で人材育成をされていると伺っていますが、長谷川さんが考えられるグローバルリーダーとは、どのようなものでしょうか。
リーダーは、ビジョンを設定し、ビジョンに至るロードマップを作り、それを自分の構成員に示し納得させ、ベクトルを合わせ、構成員の力が最大限に発揮できるようなシステムを作り、それを継続的に実証していくということです。
グローバルマインドということでは、それに加えてランゲージスキルが必要となりますし、多様性のある異文化の人たちと一緒に仕事をすることに抵抗感がないとか、海外でいろいろな人たちと話すことや知らないところへ行って仕事をすることに興味があるほうが望ましいと言えます。
細かく資質やスキルと言い出したらキリがありませんが、自分がこの社会で果たすべき使命は何かを常に考え、それに向かって自分を追いつめ努力を続けられる人がリーダーです。
長谷川 閑史 氏と対談04 長谷川さんは講演会などで「やりたいことはどうやったら見つかりますか」などという質問を受けると伺いました。ビジョン形成の源を長谷川さんはどのようにお考えでしょうか。
極めて簡単なことです。自分自身と向かい合う時間を持ち、自分はこの世に何のために生まれてきて、何をしたいのかを考えれば、自分なりにこうかなと思うことが出てくるはずです。99.9%の人は、「自分のしていることを通じて社会に貢献したい」「社会を良くしたい」「人類のよりよい生活に貢献したい」というところへ行きつくようにできています。
具体論としては、今自分がしている仕事、自分が持っている知識や能力、富などをどう使うのかという指標上で、自らのビジョンは描けると思います。人間それぞれに与えられた能力があるのですから、それを最大限に発揮するように努力しないのは、親に対する忘恩、創造主があるとすれば創造主に対する冒涜です。
地球上に生まれた生物で、自ら目標を定めて努力する才能を与えられているのは人間だけです。自然界に無駄なもの、全く意味のないものがないとすれば、その才能は意味があって与えられているのですから、きちんと自覚して努力しなければなりません。
なるほど、感銘を受けます。
日本人も再び、個人と社会の間の好循環を信じて生きるべきと思います。 私は今まで、自分ひとりでできる努力はしてきたつもりですが、その延長に生まれたビジョンの達成のためには、多くの仲間との協働が必要であり、リーダーシップの挑戦をしていることを実感しています。
少しでも大きな仕事、大きなサイズのグループをマネージする仕事をするようになればなるほど、人に任せ、人に支えられないとできません。個人の努力だけで走り回ってできることには限界があります。
賛同者を得て納得させて、ベクトルを合わせ、最大限の力を発揮させることを、もっと考えなければなりません。先ほども申し上げましたが、それがリーダーの仕事です。武藤先生個人で、直接の医療行為やコンサルテーションできる人数は、24時間毎日働いても数百人が限度でしょう。
先生と同じような志があり、サービス提供できる技量とナレッジを持った人を育てれば、それが何千人、何万人へと広がっていきます。先生の志に、私も惜しまず協力したいと思います。がんばってください。
心強いお言葉を、誠にありがとうございます。本日は貴重なお時間をありがとうございました。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

長谷川 閑史 氏と対談

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