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細川 佳代子 氏 (NPO 法人勇気の翼インクルージョン2015 理事長) 「包み込む社会の創造」

細川 佳代子 氏細川 佳代子 氏|プロフィール(2011年4月現在)詳しく知る

1961年 上智大学入学。卒業後、仕事でヨーロッパ駐在
1971年 細川護熙氏の参議院議員初当選直後に結婚
2005年 スペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野の会長
2005年 日本フロアホッケー連盟設立
2008年 NPO法人「勇気の翼インクルージョン2015」設立

対談内容

2005年長野市でのスペシャルオリンピックス冬季世界大会会長を務め、障がい・性別・年齢等を超えて共に生きる喜びを感じる社会の実現を目指して活動を続ける細川佳代子氏(NPO 法人勇気の翼インクルージョン2015 理事長)に、ご自身の挑戦や活動を通して現代社会へのメッセージを語っていただきました。


本日は貴重なお時間をありがとうございます。高齢先進国である日本で、都市部高齢者の孤独に危機感を抱き、その問題を解決すべく、医療を中心とした民間コンソーシア ムを企画し挑戦しています。細川さんは、スペシャルオリンピックスはじめ様々な挑戦をして、社会に挑戦の素晴らしさを伝えていらっしゃいます。人々がどのように挑戦したらいいのかお聞かせください。
細川 佳代子 氏と対談01 20年前にスペシャルオリンピックスと出会い、口だけではなく、とにかく行動するしかないと思いました。当時、自閉症のお子さんをお持ちだとか、近くで自閉症の方と触 れ合いのある方は、非常に関心を持っていただいたのですが、そうではない日本人は無関心でした。何もご存じない方々の意識を変え、協力いただく苦労はありましたが、2005年に長野市で冬季世界大会を実施することができました。
まず挑戦することで形になり、多くの人が巻き込まれるように関わっていかれたの だと思います。今、若者は元気がない、在宅医療で診ているお年寄りでも希望を忘れてし まったような方がいる状況で、明るい社会にするための挑戦は大事ですね。
細川 佳代子 氏と対談02 将来への夢がなく、生きている意味を失ってしまった方たちをどう励ますのか、非常に難しいことです。孤独死するお年寄りが増えている状況では、個人や民間の力も必要ですが、やはり行政がもっと熱心に注目すべきだと思います。
特に地方自治体が地域社会でのコラボレーションの道筋をつけ、実際に活動するのは民間や個人、皆が力を合わせる社会をつくることが大切です。かつての日本は共生共存の社会でした。江戸時代が250年天下泰平を続けられたのも、そうした方向に進んだからです。
明治維新があれほどスムーズにいったのは、江戸時代に地方自治、住民自治が着実に進んでいたことが大きかったと思います。殿様が税金を搾取し農民を苦しめていただけとイメージされますが、農民でも困った時には、お上に直訴できる権利を与えていますし、約2万ヵ所の寺子屋がボランティアで教育を行っていました。
ですから明治になってもすぐに学校ができましたし、先生もいたのです。アジアのどこにそれができた国があるでしょうか。植民地化された諸国は、そうした地方自治、住民自治や教育などがなかったからとも言えると思います。
そう言う意味で、日本はすばらしい文化を持っています。しかし今の日本は、誇れる歴史や文化についての教育をしていません。だから、若者たちは自信を失ってしまいました。日本民族のいいところを持っている方たちがまだ生きている間に、その人たちから人間が生きる大切な道や基本を学ぶことを教えていかなければなりません。
あるドイツ人夫妻と熊本県で偶然出会ったとき、日本人の生活スタイルには混乱がなく素晴らしい国であると讃嘆の言葉をいただきました。日本のいいところを教えないで、悪いことばかり報道されていますが、ご先祖に負けないように、素晴らしい日本を自分たちで守るという気概のある日本人を育てていかなければならないと思います。
地方はかつての地縁社会の文化がまだ残っていると思いますが、若者は地方から都市部に移り住み、地縁社会のない会社社会の中で生きています。しかし会社社会は、会社 にいる時の縁であり、その後、高齢期には無縁社会の中で生きていくことになるのです。私は、そのような都市部高齢者に、人と人が繋がるコミュニティ形成を図りたいと思っています。
一方で地方は、若者が憧れの都会に行き、お年寄りばかりが残っているという問題があります。故郷を皆で協力し合って、昔の文化・伝統を守りながら生きることが幸せで あることに気づく若者をいかに増やすかということが大切です。
細川 佳代子 氏と対談03 本当にそうですね。私の周りにも、若い方が伝統工芸に新しい視点を吹き込み、地域を盛りたてている事例や、都市で学び一定期間勤務した医師が「地元の市民のために働 きたい」といい、地方に戻る例も見られます。
そういった生き方の幸せや美しさを、彼らから学ばせてもらっています。一方で、ネット社会となり、今の若者はネットでつながる ことで孤独を感じないともききます。こういった価値観が、人が地方へ戻る素地となる可能性がありますでしょうか。
ネットは一つの手段です。しかしネットで人間力はつきません。知識はつきますが、知識だけの世界で世の中を判断するという間違いを犯してしまいます。
壁にぶつかって悩んだり、苦しんだり、努力して達成の喜びを味わったり、仲間との絆に幸せを感じたり、体験を通して学ぶことが本当の人間力につながるのです。ネットはあるほうがいいですし、それで孤独が救われている人もいるのは事実ですが、それに全部頼ってしまうのは間違いです。
在宅医療を行っている中で、実際に接して高齢者の方々から人間としての学びは数 多くあります。リアルなコミュニケーションが求められているのに、その場がなくなって いる社会の在り様が問題です。
「人間」とは、人と人との間の絆があるから人間になるのだと思います。今、そこが欠けていることがとても心配です。
細川さんは、障がいを持っている方々を包み込む社会をテーマに挑戦していらっしゃいます。この観点は、医療を行っていくうえでも本当に必要だと、あらためて感じてい ます。
細川 佳代子 氏と対談04 その視点で2つの活動をしています。1つは、フロアホッケーを広めていくことです。私のチームは、自閉症の10歳男児、20代の知的障がいの男女5〜6人、65歳以上の 高齢者、合わせて16人がメンバーです。昨年は私が一番年上で、年齢差58歳です。
このユニバーサルスポーツは、障がい者、健常者、様々な年齢層が入っており、全日本競技会のプログラムには年齢は記載されていますが、誰が障がい者かは一切触れていません。それが当たり前の大会なのです。
チームはクラス分けされ、ほぼ同程度の技能やレベルのチームが競います。強いチームを作ることが目的ではなく、お互いに思いやりと助け合いで楽しく試合をするスポーツです。日本人はどうしても競争主義になり、下手な人は落伍して上手な人だけのチームになりがちです。
それでは皆が楽しむ地域のスポーツではなくなってしまいます。ですから私は、差異を一緒に混ぜたチームを作り、お互いの理解と絆を深めることが目的だと厳しく言い続けています。もう一つは、プレジョブの活動です。
スペシャルオリンピックスで頑張り卒業した人たちの7割は、作業所にいます。元気がよくて、この仕事なら絶対にできると思える人でも就職できません。自立や社会参加と言われますが、仕事がなければ不可能です。これが現実で、社会の理解が非常に遅れています。
そこで、小学校5年生から中高生までを対象に、週に1回1時間、彼らが住んでいる地域でお仕事体験をさせてもらうプレジョブという活動を普及しています。受け入れてくれるお店や企業はかなりあります。週1回1時間ですから、受け入れ側もわりと気楽なのです。
実際にやってみると、職場の皆が優しくなり、子どもが来るのを楽しみに待つようになりました。子どもも最初は緊張していますが、1か月もすると、自分から積極的にいろいろなことをするようになります。しかも、家に帰って、お母さんに嬉しそうにあれこれ報告し、さらに家の手伝いを楽しくするようになります。
学校の先生も喜び、いいことずくめですが、放課後や週末に職場まで送り、仕事のサポートをして終わったら家まで送り届けるというボランティアを探すのが大変なのです。
先日、堀田力さん(さわやか福祉財団理事長)のところにお邪魔し、この話をしました。さわやか福祉財団は、元気な高齢者を社会で活躍してもらおうとしています。生き生きする高齢者の集まりを増やしておられ、そうした方々にプレジョブのことを知っていただきたいと思ったからです。
地域社会をもっと明るく住みやすい地域にしようと活動している団体を結び付けていくと、素晴らしい力になるはずです。
東京で始めるときには、ご協力できればと思います。
武藤先生は、同じ思いの方たちの点を線にしていきたいとおっしゃっていますが、私も同じことを思っています。日本中に点がたくさんあり、それをつないで面としての社会運動へ広げていきたいと考えています。
私たちは医療を切り口としています。行政がまずやらなければならないですが、細川さんがおっしゃるように、民間が実際にプレイヤーとして現場で一つひとつ形を作って いくことが大事です。
まず地方から始め、少しずつ広がっていますが、もう少し活動している地区が増えないと行政には報告に行けません。初めから行政主導で予算をつけてとなると、なかなか うまくいきません。民間だから工夫・努力ができる部分が多く、民間がある程度軌道に乗ったら行政が絡むというのが一番いい形でしょう。
自助努力をして最後にどうしてもお金などの面で足りないときには、たとえわずかであっても行政が支援するということです。さらに、行政との関わりで大切なのは、行政の中に担当者を1人決めてもらい、その担当者へ報告する、いい情報を提供してもらう、そして広報誌などでPRしてもらうということです。
広報誌でのPRにはお金がかかりません。民間を中心に行政も巻き込んで、地域全体で共生共存できる明るい地域社会を作るために、私たちの挑戦はこれからも続きます。
本日は貴重なお話をありがとうございました。細川さんのお話に、私たちも大変勇気づけられます。今後ともよろしくお願い申し上げます。

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武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

細川 佳代子 氏と対談

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