• HOME
  • 武藤真祐と対談(岡田 武史 氏)

岡田 武史 氏 (元サッカー日本代表監督)「日本社会が抱える課題と、その解決に向けてのチャレンジ」

岡田 武史 氏岡田 武史 氏 |プロフィール(2010年12月現在)詳しく知る

1980年 早稲田大学政治経済学部卒業
1980年 古河電気工業サッカー部(ジェフユナイテッド千葉の前身)入団
1998年 FIFAワールドカップ日本代表監督
2010年 FIFAワールドカップ日本代表監督

対談内容

現代社会において、都市部の高齢化の問題、例えば老老介護や孤独死の問題は多く取り上げられています。私たちは、この問題に医療の側面から取り組んでいます。しかし、医療だけでは足りません。人が生活をするために必要な諸々のサービス、例えば食や日用品、いろいろな相談窓口などがあればと思うのですが、社会にあるそれらのサービスは高齢者に届いていません。
そこで私たちは、医療というリアルな信頼関係のもとで高齢者と繋がり、そこから企業や地域の様々なサービスを繋いでいく、というようなプロジェクトを推進しています。都市部で薄れている「互いに支え合う地域コミュニティ」を再構築したい、というのが強い願いです。 今日は、サッカー日本代表元監督の岡田武史さんに、今の日本社会が抱える課題と、その解決に向けてのチャレンジについてお伺いしました。


岡田武史 氏と対談01 現在、国が抱える問題は、高齢者の問題を含めて多岐に渡ると思います。中でも私が取り組みたいのは子どもの成育の問題です。今、子どもが「人間になれない環境」とでも申しましょうか、守られた環境で育っています。例えば、生まれたときから冷暖房の部屋で生活するため、自分で体温調節ができない低体温の子どもが増えている、という現実です。便利で安全で快適であると思っているものは、効率や経済だけを中心にして作られており、そこでは二の次とされた「人の心」は段々社会システムから消えて行きました。
子どもを取り巻く問題も社会の問題であると思います。昔は「家」が生産の場でした。例えば農業など、親が「生産する姿」を見て子どもは「やっぱりおやじはすごい」と思い、敬うわけです。しかし今はほぼそのようなことがありません。親は家に帰ってきて「消費する」だけです。これは子どもと同じ。つまり、家の中で子どもと同等であり「親だから尊敬して、言うことを聞きなさい」といっても成り立たないのです。
そんな中、子どもの問題について「家庭が悪い」「親が悪い」といってもうまくいくはずがありません。これはもはや社会の課題です。 高齢者も同じですね。年を重ねて高齢者になるにつれ、どんどん一人になっていく高齢者を、社会がどう救うかという問題に、解を出さなくてはなりません。もはや国にも頼ることができませんから、今この問題意識がある人が、まず何かを始め、そして地道にやっていくしかないのです。
それが、「101匹目の猿」(100匹目を超えた時点で広がること)のように、ある節目を越えたときには、大きく何かが変わるのです。それを目指して、まず誰かが始めることです。
現代の世の中は、健常な人を前提に作られている街です。ですが、これからの超高齢社会においては、身体機能が低下した方々や判断機能が低下した方々が社会のマジョリティとなることを考えた社会インフラやサービスを構築することが必要です。そして、誰かがやるのを待つではなく、ここに問題意識を持った私から、小さな一歩ではありますが、実際に医療の側面から一歩踏み出しました。小さくとも、何とか私たちが成功事例を作り、多くの方々にも賛同していただきたいと強く願っております。
岡田武史 氏と対談02 それは素晴らしいことで、本当にがんばってほしい。ぜひ、取り組みを検証し、成果をだしてほしいですね。 今の社会は二極化しています。例えば、子どもの身体機能。子どもの平均的な体力は、昔より落ちているのですが、スケート、ゴルフ、水泳と何をとっても、スーパースターのようなずば抜けた子もいます。
そんな中、今の社会のように上下の平均値をとっていては、実は何にも対応できていないと思います。ケースバイケースで対応できるシステムを作る必要がありますね。これは公が担うことではなく、民が行うことであると思います。だから私も、何か活動を始めようと思っています。武藤さんが高齢者でやろうと思っていることと同じ思想で、私は子どもでやろうと思っているのですよ。
すばらしいですね。
何かご一緒にできることがあればうれしいです。 子どもも、高齢者の課題解決には重要なファクターです。子どもは昔のように高齢者と一緒にいないので、老人を労わる気持ちや死に対して希薄です。また、子どもは高齢者に活気を与えてくれます。そういった双方の背景から、子供と老人が交流する場、例えばバーチャルな「里親制度」みたいなものを作りたいと思っているのです。
今の子どもたちは、死に触れる機会が少なく、動物の死すら見たことない子も大勢います。こういった子どもが今、親になっている。そうするとどうなるでしょう。例えば、食事のときの「いただきます」という言葉。この意味合いをわかっているでしょうか。「モノ」を食べていると言う感覚だけで「命をいただいている」という実感があるでしょうか。
本来、死を通じて、人は命の尊さを後世に伝え、それを受け取った人が命を大切にしていく、という連鎖がありますが、今は切れていますね。しかしながら私たちは、生き物の連鎖という大きな流れの中に居る、ということをせめて感じ、有り難いと思って生きる社会にしなくてはいけないと思います。そういう意味では、子どもたちの里親制度というのは、とてもいいですね。
岡田武史 氏と対談03 ぜひコラボレーションできるよう、私もしっかりやります。 さて、ここで話題を変え、岡田さんに「挑戦」について伺いたいと思います。 私たちも一歩を踏み出したこの後は、「諦めずに、やり続ける」ことを決意しています。岡田さんより、アドバイスをいただけたらと思います。
目標や夢は、明確にあるべきです。簡単な気持ちではない、「必ずやる」という強い想いがなくてはなりません。そして、それを実現するための仲間や環境も大切です。そして、歩き始めたあとには、試練やプレッシャーが必ずあります。その渦中にいるときには、本当に苦しいのですが、乗り越えると強くなります。自分が一回り成長したことがわかります。
この体験を繰り返すと、どんなに強いプレッシャーがあって「もうダメかもしれん」と思っても「とにかく諦めずにやるのだ。そうすると、きっと打開できる」と思えるようになるのです。私は、試練やプレッシャーを「重力」と考えています。これがないと、本当に筋肉や力はつかないとさえ思っています。私は、指導者として能力があるとは思っていませんが、あるとしたら「簡単に諦めない」「投げ出さない」ということ、これは言えますね。
岡田さんの経験では、いつが一番辛く、その試練をどうやって乗り越えたのでしょうか?
一番辛かった時期は、1997年ワールドカップ予選のときです。いきなりの監督の交代で、サポーターからは野次や脅迫電話もありました。あの時は、本当に途中投げ出したかった。しかし、ジョホールバルに行った時に、スイッチが切り替わったのです「全力を尽くしても、駄目だったら仕方ない。とにかく、自分の全力を尽くすだけだ」と。いわば、開き直ることができるかどうかですね。
今でいうと「このような社会を創りたい」と思ったならば、とにかくそのために毎日やれることをやり尽くすだけです。「やれなかったらどうしよう」と今考えることはない。やれなかったときに考えることで、今の自分にできることをやり続けることです。
最後になりますが、私達は現在、在宅医療の現場で、高齢者の方々のさまざまな生活を目にしております。マクロでは見えない、在宅医療現場で見聞きして感じることを起点に、「何としても、やらなければならない」との強い想いに突き動かされて、現在に至っています。私達の活動についてコメントをお願いいたします。
岡田武史 氏と対談04 理屈や理想を考えても、やらなければわからないことばかりです。何と言っても、実践することが一番大事なのです。 釈迦の言葉で、淵黙雷声(へんもくらいせい)と言う言葉があります。弟子がお釈迦様に「悟りって何ですか」と尋ねたとき、お釈迦様は深く深く黙したが、その淵黙が雷のような大きな声を発したように聞こえたということです。
この意味は、「ここで理屈を捏ねているよりも、修行をして悟りに一歩でも近づきなさい」ということです。 今の社会課題への取り組みも、まったく同様です。なんだかんだ言うよりも、まずやること。その一歩を踏み出すことです。 若い人に「目標や夢が見つけられません。どうしたらいいのですか?」と言う質問をされることもあります。目標や夢の第一歩は何でもいいのです。
「カラオケ2曲マスターする」でもなんでも、そのために行動したら、新たな気づきや想いが産まれるはず。まず、踏み出さないことには何も始まりません。 そういった意味で、武藤さんが踏み出した一歩、本当にすばらしいことです。頑張ってください。そして、近い将来、一緒にコラボレーションできるようにお互いに頑張りましょう。
本日は貴重なお時間、誠にありがとうございました。ぜひ、コラボレーションできるように頑張ります。

この対談をPDFでダウンロードする

武藤 真祐(聞き手)
武藤 真祐|医療法人社団鉄祐会 祐ホームクリニック 理事長 詳しく知る

1990年 開成高校卒業
1996年 東京大学医学部卒業
2002年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
2010年 祐ホームクリニック開設
2011年 祐ホームクリニック石巻開設
内閣官房高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 医療分野の取組みに関するタスクフォース構成員
みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会 システム構築委員会 委員
石巻市医療・介護・福祉・くらしワーキンググループ委員
経済産業省地域新成長産業創出促進事業ソーシャルビジネス推進研究会委員等公職を歴任

岡田武史 氏と対談

ページトップへ